「与えられた仕事の範囲内で、業務をこなす」—多くの人が日々の仕事に対して、そのような姿勢で向き合っているかもしれません。しかし、もしその”範囲”を少しだけ広げてみたら、そこには何が待っているのでしょうか。
沖縄ロングステイ株式会社で客室管理部の部長を務める田里さん。もともと清掃スタッフとして未経験で入社した当初は、「一体どんなことをやるんだろうと、不安しかなくて」と当時を振り返ります。しかし、持ち前の探究心と行動力で専門技術を次々と習得。今では「何か困ったことがあったら、まず田里さんに」と、業界の垣根を越えて頼られる存在となっています。彼はいかにしてその枠を超え、周囲から絶大な信頼を得るに至ったのか。その軌跡を追います。
ー「これ、自分でもできるぞ」ー未経験から独学でプロの技術を習得
田里さんが沖縄ロングステイに入社した当初の役割は、清掃スタッフでした。それまで清掃業務の経験は一切なく、入社当初、客室の設備にトラブルがあれば、すべて専門業者に依頼し、その作業に立ち会うのが彼の仕事でした。しかし、何度も立ち会いを重ねるうちに、彼の心にある思いが芽生えます。
“これできるぞ。”
このシンプルな気づきが、彼のキャリアの転機となりました。そこから田里さんの独学が始まります。業者が廃棄するエアコンをもらい受け、事務所の倉庫で分解しては組み立て、洗浄の仕組みを徹底的に学びました。キッチンの換気扇も、鍵のシリンダーも、プロの作業を観察し、自分で調べ、試行錯誤を繰り返すことで、その構造と修理方法を完全にマスターしていったのです。彼を突き動かしていたのは義務感ではなく、「めちゃくちゃ楽しい」という純粋な好奇心でした。この尽きることのない探究心と「やってみよう」という行動力が、未経験の清掃スタッフをプロの技術者へと変貌させていきました。
ープロが認めた技術力ー鍵屋の社長からのお墨付き
独学で身につけた技術は、やがて本物のプロフェッショナルの目にも留まることになります。特に、これまで業者に任せきりだった鍵のシリンダー分解洗浄を自らの手で行えるようになったことは、会社にとっても大きな貢献となりました。
その技術力は、沖縄県内で大きなシェアを持つ鍵の専門業者「琉大キーセンター」の社長にも認められました。田里さんの仕事ぶりを見た社長は、自社のスタッフに対し「田里さんが持ってる道具とか見といてよ」と声をかけたと言います。これは、いわば鍵のプロが、独学で技術を習得した田里さんを「手本」として認めた瞬間でした。この出来事は、田里さんにとって大きな自信とやりがいにつながったに違いありません。
ー業界の垣根を越える信頼ー「困ったら、まず田里さんに電話して」
プロからのお墨付きを得た田里さんの評判は、特別な営業活動をすることなく、口コミだけで自然と広がっていきました。当初は、鍵屋が手一杯の時に依頼が回ってくる、という形でしたが、今では状況が一変。マンションのコンシェルジュデスクや他の管理組合からも、「何かトラブルがあったら、まず田里さんに電話してください」と直接案内されるのが当たり前になりました。
彼の問題解決能力を象徴するエピソードがあります。ある特殊な構造を持つ「タカラスタンダード」社製のレンジフードは、故障すると部品の取り寄せに3週間もかかっていました。これでは入居者が不便を強いられます。そこで田里さんは、メーカーの沖縄担当者、さらには福岡の支社担当者と直接交渉。沖縄で多くの人が困っている現状を伝え、修理に必要な基盤を自社で在庫として確保するルートを確立したのです。これにより、これまで3週間かかっていた修理が、即日で完了できるようになりました。彼の行動は、自社が管理する物件の入居者だけでなく、多くの人々の暮らしを支えています。
ー意外な素顔ーSNSには載っていない沖縄そばの名店を知る食通

仕事では技術を追求するプロフェッショナルな田里さんですが、意外な一面も持っています。彼は、沖縄そばをこよなく愛する食通。しかし、彼のこだわりは「SNSで出てこないような店」を探し出すこと。
例えば、東南植物楽園の入り口近くにある「東南食堂」。昔ながらの沖縄の食堂といった趣の店で、絶品の「辛し重脂(からしじゅうしぃ)」は人気ですぐに売り切れてしまうそうです。他にも、こってり好きにはたまらないという「マルチそば」や、あっさりとした味わいが魅力の「車そば」など、彼の口からは地元の人ぞ知る名店の名が次々と挙がります。その語り口からは、沖縄の食文化への深い愛情が感じられ、仕事での真剣な表情とはまた違う、人間味あふれる魅力が伝わってきます。
ー「楽しいから。やる。」
インタビューの中で田里さんが語ったこの言葉が、彼のすべての原動力なのかもしれません。業を見て感じた純粋な好奇心、そしてそれを「楽しい」と感じる心。そのシンプルな動機が、専門性を高め、プロをも唸らせる技術となり、ついには業界の垣根を越えて多くの人から頼られるという、新たな価値を生み出しました。
彼の物語は、私たちに大切なことを教えてくれます。あなたの仕事には、まだ発見されていない「楽しさ」や「可能性」が眠っているのではないでしょうか? 日々の業務の向こう側へ一歩踏み出す勇気が、予想もしなかった新しい扉を開く鍵になるのかもしれません。